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日曜日、私の青空くんのお母様が退院する。
ナースセンターに挨拶をして、青空くんは荷物を持って大事そうにお母様を労わりながら病院を後にする。
「ばいばい。私の青空くん。」
わずかな接点がなくなり、私にはもう、切り取られた青空が残るのみだ。
「ないより、ましかぁ。」
呟いてベッドに横になる。
青い空は私にとって自由の象徴であった事に気付く。
自由に憧れていただけか、彼が少しは好きだったか、確かめるすべももうない。
「あおはる、何て誰が言い出したんだろ?」
呟いて切り取られた青空をみる。
青いキャンパスだ。
ドアがノックされて返事をする。
窓を見たまま振り返らず、ドアが開く音だけを確認する。
「薬ですか?」
「あ、いえ、すみません。、実は母に頼まれまして。」
聞き覚えのある爽やかな声が聞こえて、振り向いて絶句する。
私の青空くんがそこにいる。
「あの、母が今日、退院なのですが、入院した当日に貴方にテレホンカードとお金を借りたそうで、お礼をしてないので、行って来いと言われまして。」
「テレホンカード?」
目の前にあの坊主頭があり、恥ずかしそうに喋っている。
心臓はバクバクして飛び出そう。
「急な入院で電話するのに、お金を入れてたらしいんですが、切れそうになって、貴方がテレホンカードを入れてくれたって言ってました。会社とかあちこち電話して、終わったら喉が渇いて、何か飲もうとしたけど、小銭は全て使い切ってて。」
あの人そういうとこあって、と笑いながら言う。
「自販機の前にいた貴方がお茶でいいかって聞いて渡してくれたって。 愛想はないけど親切だったって。あ、すみません。」
「いえ。本当のことですし。」
「同じテレカはなくて、ほら、今ってもうテレカの時代じゃないから。でも、買って来たので。その節は母がありがとうございました。」
しっかりと頭を下げるとあの背中が見える。
「甲子園…… 目指してるんですよね?」
その背中を見て不意に言葉が出る。
「はい。今年はダメでしたが来年、また目指します。諦めません。」
青空、じゃない…もっと青くて透き通った色だ。
彼は……青よりもっと……透き通った青だ。
そう思った。
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