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氷は氷壁に身体を預けて俯いていた。頬を丸い氷片がすべり、ころん、ころん、と床で音をたてた。それらは初めて見るものだった。そしてそれが何なのか彼女には分からなかった。
ざく、と重い音がすぐ近くで響く。
顔を上げた彼女は、サイファがひどく憔悴した様子で床に崩れるように腰を下ろすのを見た。
「サイファ……?」
恐る恐る声をかけると、別人のようにやつれたサイファが顔を上げて彼女を見た。衣服には氷片が無数にこびりついている。
彼は深く、深く息を吐いた。
「あんたは俺をどうしたいんだ? 他の泥棒と同じに、氷河に埋めるつもりなのか」
「……そんなこと、しないわ」
「ならどうして、こんなに酷い嵐になったんだ?」
そのとき初めて、氷は谷を満たす唸りを聞いた。
氷は風に呼びかけ、冷気に語りかけた。静まり返り、この者をもとの土地へ送り届けよと。
だが嵐は弱まらず、風はますます大声で雄叫びをあげた。
氷は何度も何度も嵐に嘆願したが、ついにそれを鎮めることが出来ないと悟ると、ひどく青ざめて震えた。
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