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朝、青年は目覚めると氷に笑いかけた。
「やぁ、おはよう。よく眠ったか?」
氷にヒビが入るように微かに、しかし懸命の努力で口を開き、氷は答えた。
「わたしは、眠らない……」
青年は氷が言葉を発しても驚いた様子は示さず、ただ満足そうに笑った。
「やっぱり話せるんだな」
「……初めて言葉を発する。わたしは、話したことはない」
「そりゃ、こんな場所にいれば話し相手もいないだろ。寂しくないのか?」
氷は声をほんの少し大きくした。
「寂しくはない。雪と風が色々話してくれる」
「どんな話を?」
そこで氷は語り始めた。雪の結晶が成長するときに謳うことや、冷たい風が荒野を駆け巡り野生の山羊の群れを駆り立てることや、真冬に昼が訪れなくなる土地のことや、氷結した滝のことや、極地の夜空を飾る七色の光の帯のことなどを。
氷の言葉はとつとつとしていたし、声はかすれがちだったので、それらを語り終えると日没になってしまったのだが、青年は真摯に耳を傾け続けた。
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