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月が上った。
すやすやと眠るサイファの顔を眺めつつ、眠らない氷は物思いに沈んでいた。
彼は氷を娘、と表現した。
娘の意味は知っている。人間の若い女のことだ。自分はそのようなかたちをしているのだろうか。
氷は己の姿のことなど、今までまったく意識したことがなかった。
だが今、鏡というものがこの場にあったらさぞ良かったのに、と思った。
氷柱が月光を受けて鋭い銀色の輝きを放つ。それを見て氷はふいに気付いた。この土地にも鏡はあるのだ。
氷柱に命じて向きを変えさせて、氷はそこに映るものを覗き込んだ。
薄青い表面に、真っ白な長い髪の少女の顔が見えた。氷塊の影色の瞳をして、彼女は熱心に柱の表面に見入っていた――。
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