真夏の国からの旅人

6/13
前へ
/13ページ
次へ
 月が上った。  すやすやと眠るサイファの顔を眺めつつ、眠らない氷は物思いに沈んでいた。  彼は氷を娘、と表現した。  娘の意味は知っている。人間の若い女のことだ。自分はそのようなかたちをしているのだろうか。  氷は己の姿のことなど、今までまったく意識したことがなかった。  だが今、鏡というものがこの場にあったらさぞ良かったのに、と思った。  氷柱が月光を受けて鋭い銀色の輝きを放つ。それを見て氷はふいに気付いた。この土地にも鏡はあるのだ。  氷柱に命じて向きを変えさせて、氷はそこに映るものを覗き込んだ。  薄青い表面に、真っ白な長い髪の少女の顔が見えた。氷塊の影色の瞳をして、彼女は熱心に柱の表面に見入っていた――。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加