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花のピアノ・ワルツ
わたし、えみは、この世界で最も美しい音を知っている。
音の色がとっても鮮やかで、鮮烈。果てしなく広がる真っ青な海のように。
けれども、淡い。庭に咲いた、珊瑚色のコスモスのように。
この音を聞いていると、わたしだけ違う世界に入ってしまったように感じる。ある一曲の、一音目を鳴らしたら、いつもそう。周りが見えなくなって、わたしの目に映るのは今にも踊り出しそうな五線譜だけになる。
その一音目が四分音符だろうと、四分休符だろうとね。無音の休符でも、音なのよ。
最初は、メゾフォルテ。mとfが合わさった「やや強く」の強弱記号。そんな時は、手首をきかせて奏でる。くっついた三つの音符には、アクセントがついてるから、もっと強く、身を任せて。
音は変わって、もう一回、もう一回。
曲の始まりは、物語の始まり。この素晴らしい物語を指揮するのは、最初の一小節目。わたしが奏でる音楽「花のワルツ」は、わたしにとってとっても大事な物語。だって、わたしには華やかな音楽の世界がぴったりだもの。
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