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「未希、これ、預かっていてほしいんだ。またいつか僕がこの町に戻ってくるまで」 そう言って、あの子は首にかけていたペンダントを外して、わたしの手に握らせた。 「遠くに行っちゃうの?」 「うん。でも、きっとまた会えるよ」 あの時初めて、わたしは大切な友だちとの別れを経験した。 あれから10年がたつ。 さくっ、とトーストをほおばると、口の中にオレンジマーマレードの爽やかな甘酸っぱさが広がった。 「んー、美味しい!」 これこれ。一日の始まりはこうじゃなきゃ。 美味しいものを食べたら、今日も一日頑張ろうって気持ちになれるもん。 わたし、小戸森未希(こともり みき)。高校二年生。食べることと寝ることが大好き。みんなからはよく「のんきすぎ」「マイペース」って言われるけど、わたしからしたら、みんなの方がバタバタしてるように思える。気のせいかな? RRRRRRR… テーブルの上で、スマホが鳴る。 あ、さっちゃんだ。 スピーカーホンモードにして、テーブルに置いたまま電話に出る。 「おはようさっちゃん」 『もーっ、“おはよう”じゃないでしょ!?今何時だと思ってんのよ!朝のホームルーム、始まるよ!?』 「うっ…、今急いでるところだよ…」 『とにかく、早く来てよね。特に今日は朝のホームルームで…、あ、ごめん切るね』 ブツッ、ツーツーツー。 ん? 今何か言いかけたような。 ま、いっか。 たしかに、ちょっと急がないとマズイかも。 急いで朝食を済ませてから、制服に着替え始める。 今は6月に入ったばかり。半袖のブラウスが新鮮だ。 鏡の前で、最後の身支度のチェックをする。 「おっと、いけない」 わたしはベッドの脇に置いてある、リンゴの形をした小物入れからペンダントを取り出した。 鍵の形をしたペンダント。 ちょっと古くて黒ずんではいるけど、ひとつだけはめこまれたピンク色のトパーズは窓からの光にきらきら輝いている。 わたしのお守りみたいな物かな。 これを首に下げて、と。 「行ってきます!」 わたしはようやく家を出た。 さすがに、ちょっとのんびりし過ぎたかな。 こういうときは、“あの道”を通ろう。 ふだんは通らない道。
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