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ほら、よく童話であるじゃない。
禁断の森っていうのかな。
「あの森には、危ないから入っちゃだめだよ」って言われながら、主人公は入ってしまう。
実は、わたしの近所にもあるんだ。
森じゃなくて、洋館だけど。
もっと言えば、“かつては”「洋館に近づいてはいけない」っていうのが、この町の住人の暗黙のルールだった。
そう、“かつては”だから、“今は”いいっちゃいいんだけど。
わけを話すと長くなるかも。
とにかく、わたしはその“ワケあり”の洋館の前の道を通ろうとした。
理由は単純、その方が近道だから。
マンションとかでもそうだと思うけど、“ワケあり”ってあんまりいいイメージがない。
だから、新しい住人だって詳しい理由は知らなくてもこの付近は避ける。
なのに…。
曲がり角を曲がったわたしの目に飛び込んできたのは、ひとりの少女だった。
最初に見たときは、モデルさんかと思った。そのくらいの美少女。
青いスカーフを胸元で留めた、冬服らしい黒の長そでのセーラー服に、ローファー。
風にサラサラなびく、ミディアムヘアー。
そんな彼女は、古びた門の前で洋館を凝視しているのだった。
それも、自分の天敵を見るような、そんな目つきで。
…よく分かんないけど、この子、普通じゃない。
もと来た道を引き返そうと思って一歩、わたしは後ずさった。
その時、今まで洋館に集中していた彼女がハッとしてこちらを振り向いた。
目が合う。
吸い込まれそうな瞳だ。
一瞬、この時間が永遠に続いているように感じられた。
そして、彼女はふっと視線を外すと、あっという間に曲がり角の向こうへ消えてしまった。
我に返るのに、少し時間がかかった。
何だったんだろう、さっきの子…。
先を急ぎながら、ぼんやりと考える。
それに、あの制服。うちの高校の制服じゃないし、他校の生徒かな?
でも、学校へ近づくうちに、その子のことは頭の中から消えてしまった。
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