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「はぁーっ、間に合ったぁ…」 ギリギリ遅刻をまぬがれたわたしは、教室の自分の席に着いて、カバンの中の教材を引き出しにしまっていた。 「今度こそ遅刻すると思ったよ。ねえ結月?」 前の席の、さっちゃんこと泉沙織(いずみ さおり)があきれたように言う。 さっちゃんは、女子バレー部に所属していて運動が得意。5人兄弟の一番上ってだけあってしっかり者で、面倒見がいい。朝、わたしに電話してくれたのもこの子だよ。 「未希はほんとマイペースだからね」 佐藤結月(さとう ゆづき)がにこり、とほほ笑む。 ああ、この子のほほ笑みは何度見ても癒されるわ~。 結月はとてもおしとやかな女の子で、立ち振る舞いがとても上品。 お嬢様って言った方が話は早いかな。 最も、本人はそう呼ばれることを嫌っているけどね。 この二人は、わたしのクラスメートで友達なんだ。 「そうそう、電話で言いかけたことなんだけどね」 さっちゃんが思い出したように言う。 「ああ、あれ。どうしたの?」 ちょうどその時、チャイムが鳴ってみんながそれぞれの席に着き始める。 それにしても、教室の雰囲気がいつもと違うような。 みんながざわざわと落ち着かない。 「あたしも今朝知ったことで驚いてるんだ」 ガラガラっ。 教室の前の引き戸が開いて、担任の先生と、誰かが入ってくる。 「うちのクラスに転校生が来るって」 でも、さっちゃんの声はわたしの耳に入っていなかった。 黒いセーラー服を着た少女。 気だるげな表情で、しぶしぶといった様子で黒板の前に立つ。 「あっ」 あの子はさっきのー…。 「みんなおはよう。北海道から転校してきた、水鳥川澪(みとりがわ れい)さんだ」 教室のあちこちから、ため息がもれる。 「なにあの子、めっちゃ美人じゃん」 「お人形さんみたい」 「なんでわざわざ北海道から来たんだろうね」 「でもあの表情。性格悪そう…」 …なんか、転校早々いろんなウワサを広めちゃいそうな子だなぁ。 「それじゃ、水鳥川の方から何か一言」 先生の言葉に、みんながしん、と静まり返る。
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