0人が本棚に入れています
本棚に追加
2
「はぁーっ、間に合ったぁ…」
ギリギリ遅刻をまぬがれたわたしは、教室の自分の席に着いて、カバンの中の教材を引き出しにしまっていた。
「今度こそ遅刻すると思ったよ。ねえ結月?」
前の席の、さっちゃんこと泉沙織(いずみ さおり)があきれたように言う。
さっちゃんは、女子バレー部に所属していて運動が得意。5人兄弟の一番上ってだけあってしっかり者で、面倒見がいい。朝、わたしに電話してくれたのもこの子だよ。
「未希はほんとマイペースだからね」
佐藤結月(さとう ゆづき)がにこり、とほほ笑む。
ああ、この子のほほ笑みは何度見ても癒されるわ~。
結月はとてもおしとやかな女の子で、立ち振る舞いがとても上品。
お嬢様って言った方が話は早いかな。
最も、本人はそう呼ばれることを嫌っているけどね。
この二人は、わたしのクラスメートで友達なんだ。
「そうそう、電話で言いかけたことなんだけどね」
さっちゃんが思い出したように言う。
「ああ、あれ。どうしたの?」
ちょうどその時、チャイムが鳴ってみんながそれぞれの席に着き始める。
それにしても、教室の雰囲気がいつもと違うような。
みんながざわざわと落ち着かない。
「あたしも今朝知ったことで驚いてるんだ」
ガラガラっ。
教室の前の引き戸が開いて、担任の先生と、誰かが入ってくる。
「うちのクラスに転校生が来るって」
でも、さっちゃんの声はわたしの耳に入っていなかった。
黒いセーラー服を着た少女。
気だるげな表情で、しぶしぶといった様子で黒板の前に立つ。
「あっ」
あの子はさっきのー…。
「みんなおはよう。北海道から転校してきた、水鳥川澪(みとりがわ れい)さんだ」
教室のあちこちから、ため息がもれる。
「なにあの子、めっちゃ美人じゃん」
「お人形さんみたい」
「なんでわざわざ北海道から来たんだろうね」
「でもあの表情。性格悪そう…」
…なんか、転校早々いろんなウワサを広めちゃいそうな子だなぁ。
「それじゃ、水鳥川の方から何か一言」
先生の言葉に、みんながしん、と静まり返る。
最初のコメントを投稿しよう!