記憶の青

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私は宇宙飛行士だった。 地球の、海の上に浮かぶ陸の、そのさらに小さく浮かんでいる日本の、宇宙飛行士だった。 計器が狂って、エンジンが止まって、みんな遺書を書き出して、それではお休み、と家族のように言い合うまで、私は宇宙飛行士だった。 息がすうっと出来なくなって、遠くで気を失ったしあわせな宇宙飛行士の仲間が壁にコツンと当たって、ふわりと体が浮いて。地球に置いてきた、可愛い犬のことを思い出して、それだけが心残りだと思ったところまでは覚えている。 いや、そこしか覚えていない。 先のことは全くわからない。 ただ、気がついたら私は、薄青の肌の、恐らく男性の、私が初めて見る宇宙人と一緒にいて、点滴らしきものをされていて、ベッドらしきものに寝かされていて、日本語らしきものでこんにちはと言われた。全てが、らしきものというのも、もしかしたら私は死んでいて、これは夢で、私が小さい頃に見た、我々は宇宙人だ、と喉仏のあたりを叩いて真似する芸能人の思い出なのかもしれないという事なのだが、しかしそれにしては、青い肌をして、顔にガスマスクをつけて、ツルツルではないさらさらの服を着ていて、宇宙人然としていない。私が想像していた、銀色で、ぴかぴかしていて、ギラギラしていて、眩しい光から登場するサイケデリックとは、明らかにコントラストが異なっていた。
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