あの日、長崎の空は青かった

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割れんばかりの拍手に包まれて、防空頭巾ごと右手を胸に抱いたおばぁちゃんは、とても誇らしい姿だった。 その姿に、涙が次々と溢れてくる。 私は家に帰るなりおばぁちゃんに泣きついた。 私は今日、おばぁちゃんが被爆者であったことを初めて知った。 結婚で色々と苦労したというお母さんも、いつも原爆についてのことは話さなかった。 二人とも、とても辛い思いをしてきたのだ。 被爆者と、被爆二世であることで差別を受けた時代もあった。 だから、話すことを避けていたんだ。 おばぁちゃんは右手のことをリウマチだと私に教えていた。 けれど、よく見たら火傷跡やケロイドがくっきりと残っている。 「ばぁちゃん、私、エツ子おばちゃんに似てる?」 「うんうん。よ~似とるよ。目元と、ぷくぷくしたほっぺたが特によう似とるばい」 「あんね、ばぁちゃん。あたし今日の話、忘れんけん! ずっとずっと、忘れんけん!」 私は、それから縁側に座るおばぁちゃんの隣に腰掛けて、あの歌を歌った。 被爆から七十三年の時を経て、今もなお平和を祈り続けるおばぁちゃんのために、歌詞の意味を噛み締めながら。
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