8人が本棚に入れています
本棚に追加
あの日、長崎の空は青かった
「えっちゃん、頭巾はちゃんと持ったね? 」
私のおばぁちゃんは、学校へ行く私をいつも縁側から見送って、最後は必ずこの言葉で締めくくる。
今日みたいな夏休み中の登校日だって、それは相変わらずだった。
ちなみに、私の名前は有紗と言って、『えっちゃん』なんて呼ばれ方はこれまでずっとされたこともない。
要するに、おばぁちゃんはボケている。
私が小学校に上がった頃からずっとこの調子だから、かれこれもう五年にもなる。
他のことはしっかりしているはずなのに、何度言ってもこの二つだけは治らないから、正直、うんざりしてきた。
「ばぁちゃん、いつも言いよるやろ? あたしはアリサで、今はもう戦争もなかっちゃけん、頭巾はいらんと!」
リウマチで変形した手にうちわを握りしめ、険しい顔で私の背中を見ていたおばぁちゃんよりも、さらに険しい顔でそう言ってから、そそくさと家を出た。
最初のコメントを投稿しよう!