真夏のフレンチ

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真夏のフレンチ

 みちばたの紫陽花が見るも無惨にしおれていた。まだ七月に入ったばかりだというのにあろう事か、午前中から気温は三十度を超えていて僕は顎からしたたる汗を拭くことすらせず憎き太陽を睨んだ。  暑い。いくらなんでも、こりゃひどい。 「きみねえ、仕事熱心っていうのはさ、有給取らずに毎日残業することじゃないから、ね? 効率ってわかる、ねえ、効率。いやいや時間かけるなとか雑にやっていいっていうんじゃないのよ。うーん、ほらさあ、有給消化率がね、きみすごく低いの、うん、わかるよね?」  うねうねと今時女の人だってそんなにねちっこい話し方しないんじゃないかというくらいに嫌らしく、ハゲ田係長が僕を責めたてたのが先週半ば。  要するにみんな全然有給を取得しないのでこのままじゃハゲ田の成績が下がるとかなんとかで、営業二課の中でとりあえずもっとも有給がダブついてた僕がやり玉にあがったわけだ。有給を取れともう半ば脅されたもんだから、じゃあ譲歩して午前半休で、いやこれ以上は譲れない、だってどうせ有給取ったってあんたたち僕の携帯容赦なく鳴らすじゃないかしかもすぐ出ないとあとからねちねち言われるじゃないか、そんなの休んでる気になれないだろうが、というようなやりとりを経て、僕は今日午前半休を取った。
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