第3章 じれったいふたり。

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「ごめんなさい」と私は下を向いた。 「謝らないでよ。 この夏は楽しかったな。 ナナコちゃんの料理はどれも美味しかったし、 あの、マイペースな男は、どのスタッフにも話しかけて意見を聞くから、 ぼくまで話し合いの場に引っ張り出されて… …意見の衝突はたくさんあったけど、 理解し合える事ができて、他部門の人とも上手く仕事が出来るようになった。 こうやって、みんなと花火を見るなんて、今までの僕では考えられないよ。」 と、スッキリした顔で笑った。 「それに、僕は知りたかったんだ。 ひとは大切なモノを失っても、 また、前を向いて歩いていけるのか。 …ナナコちゃんは、歩いて行けそうでしょう?リュウ先生と一緒なら。」と言って、 「ぼくも、前の奥さんの事。少しずつ思い出にしたい。 まだ、写真の整理もしていないし、彼女の荷物もそのままだ。 …ナナコちゃんは片付けた?」と聞く。 私が横に首を振ると、 「そっか。リュウ先生を選んだのなら、少しずつ片付けないとね。 結構、そのネックレスもされてると辛いかな。 それ、修一君から貰ったものでしょう。」と聞いた。私は頷き、 「このネックレスのおかげで、1人じゃないって思って来れたの。 でも、1人でも生きていく決心をしないといけないって思ってる。」 「なんで、ひとり?」と、菅原先生は変な顔をする。 「だって、私だけ好きでも仕方ないでしょう。」と言うと、急に笑い出し、 「なるほどねー。これは大変だ。いや、うーん、困ったな」と頭を掻いて、 「ナナコちゃん、リュウ先生に振られたら、いつでもぼくのところにおいで。 もう少し、ナナコちゃんの事好きでいるようにするからさ。」 と、ギュッと引き寄せ、額にキスをして、帰って行った。
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