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幽霊を捕まえろ
百合江さんの家のライトが点くのを待つために、櫂が夜の数時間を百合江さんの家で過ごすようになってから三日が過ぎた。
百合江さんはもともと幸子さんの親しい友人なので、櫂がしばらくの間、センサーの灯りを見張りに行きたいと言った時もすぐに受け入れてくれたのだが、この三日間で百合江さんはすっかり櫂が気に入ったようだった。
しかし毎日のようについていた肝心のライトは、このところパタリと点かなくなった。
「櫂くん、このお菓子いただいたんだけど食べる?」
百合江さんはミニチーズケーキと紅茶をお盆に載せて、居間に入ってきた。
「あっ、いただきます。美味しそうですね!」
櫂はすぐに、小さな一口サイズのチーズケーキに手を伸ばした。パリパリと音を立てて、透明な包み紙を開く。
「悪いわねえ。せっかく来てもらっているのに」
百合江さんは申し訳なさそうに言って、自分もチーズケーキを手に取った。
「いいんですよ。いつ幽霊が出るかなんて、百合江さんに分かる訳ないんですから。オレは美味しいお菓子を食べて、百合江さんとお話して仕事になるんですから、かえってお得なんですよ」
櫂のお世辞とは思えない言い方に、百合江さんは、ホッとした様子で紅茶に口をつけた。
その時、カーテンにパッと光が映った。人感センサーが反応してライトが点いたのだ。
「百合江さんはここにいて!」
そう言うと、櫂は掃き出し窓から飛び出した。
けれど靴を玄関に脱いだままにしてあったので、裸足の櫂はチラッと黒い影を目にしたものの、あっさりと取り逃がしてしまったのだった。
さらに言うならば、その黒い影が幽霊なのか人なのかすら、櫂には判断がつかなかった。
(しまったー。さつきに怒られる……)
櫂はライトが消えて、星の光る夜空を仰いだ。
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