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僕の歌は届かない。僕の謳は響かない。
駅前を歩くサラリーマン。エスカレータを下りるOL。誰一人として立ち止まる人は無く、誰一人として僕の歌に耳を傾ける者はいない。
万人受けしそうなコードや、どこかにありそうなフレーズ。そういうのが嫌いで、大嫌いで、ただただがむしゃらに並べたコードと、ハチャメチャなフレーズを捲し立てた出来損ないの歌。
等身大の僕の心。それでも僕の声は……他人に届かない。
時計の針が24時を差したころ。僕の路上ライブは終わりを告げた。
「……クソが」
「いつも思うけど、君の歌さー、説教クサいよね」
「ひぃ!?」
歌い終わった余韻と諦め、そんなものが混ざっていた感情で、僕は虚を突かれた。急に声をかけられて、僕は心臓が飛び出る思いだった。
見ると、いつの間にか、僕の目の前に膝を折りたたんで座っている女の子がいた。
彼女の黒い、セミロングとショートの中間くらいの髪、デニムのショートパンツに白色のTシャツ。肌は限りなく白く、両腕の後肘部(こうちゅうぶ)には、注射が終わった後の絆創膏のようなものが貼られていた。
「……はぁ?」
僕は思い切り悪態をついてやった。
生ぬるい空気が、首元にまとわりついた。
「私的にはそんな曲聞かされても、お腹いっぱいって感じ。正直胸やけ?」
「……」
「そんなん皆いつも誰かに言われてんじゃん」
僕は彼女のことを無視し、譜面台やギターなどを片し始めた。
「ねぇねぇ、聞いてる?」
「うるさいな。文句言いたいだけなら帰って貰えますか?」
無視してもさらに話しかけてくる女の子に、僕はイラついた口調で答えた。
「文句? 違う違う。お願いしに来たの」
「は?」
「私のためにさ、歌作ってよ」
「……はぁ?」
何言ってんだこの子は。
「いや、悪いけどそう言うことしてないんで」
僕は立ち去る準備を整え、立ち上がった。
すると、女の子もそれに倣って僕と一緒に立ち上がる。
「えー。いいじゃん。なんでよ。私が満足するような曲だったら、作曲代、言い値で払うから」
「金の問題じゃない!」
その発言に、僕は思わず声を荒げた。
そして言ってから後悔する。女の子は女子高生くらいだ。言い値など払えるはずがない。だからそれが単なるからかいであることは明白だった。
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