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「ええ、知らない土地ですが、何度か遊びには来たことはあったので、それで思い切って」
「こちらに来られたのですね」
「ええ、そういったわけです」
康介も傍らのクッキーの缶から、なんの飾りもないクッキーを一つつまんだ。
「広島は大変なことになったそうですね」
「え?ああ、戦争の時」
「はい」
「母が、当事者だったみたいですが、私はなんせ生まれてませんから」
「そうですね。もうだいぶ昔のことですね」
「母は当時のことはあまり話したがりませんでした。父は兵隊に取られて、広島にはいなかったみたいですし。だから私も詳しくは知らないのです。もちろん学校やなんかではいろいろと教えられはしましたが」
「そうでしたか」
「ただ母は、寝ている時、度々とてもうなされていました。そのまま死んでしまうんじゃないかというくらい、汗を掻いて苦しんでいるんです」
「お母様はやはり何か見たのですね」
「ええ、多分」
「母は確かにあの時、広島にいたのです。それは親戚の人の話ではっきりしています。婦人部の仕事で救護活動もしていたみたいなんです」
「では・・」
「ええ」
二人はそれ以上の言葉を見つけられず黙った。
「私の体の弱さもそのせいではないかと、親戚中で言われたりもしました」
「・・・」
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