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「真相は分かりません。ただ、いろんな医者に診てもらったのですが、結局原因は何も分かりませんでした」
康介は、どこか遠くを見つめるように庭の木々を見つめた。
「人間は鬼じゃ」
「えっ?」
「僕が小さい時、母がふと言ったんです。どんな時だったかは覚えていないのですが、母はそんな言葉を言うような人では決してなかったから、とても驚いたのを覚えています」
「鬼・・」
「その時は何を言っているのか分からなかったのです・・」
「・・・」
「なんだか、暗い話になっちゃいましたね」
康介は少し笑った。
「いえ」
「そうだ。今夜、僕に付き合ってもらえませんか、見せたいものがあるのです」
康介は突然思い立ったように君子を見た。
「えっ」
「もちろん残業代は出します」
「い、いりません」
「じゃあ、付き合ってくれるんですね」
「は、はい」
「では、夕食もご一緒しましょう」
「は、はい」
「ここです」
夕食をゆっくりと食べ、遅い夕闇がゆっくりと広がり始めた頃、康介が君子を連れてきたところは、あの謎の煙突のような塔だった。君子がこの塔を近くで見るのは初めてだった。いつも遠くからは見飽きた存在であったのだが、間近で見ると、その古さと、レンガの重厚さにまた違った存在感があった。
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