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「僕も小さい頃から一人ぼーっとしている人間でした。周りからは何考えているか分からないって、さんざん言われました。体も弱かったし、周囲からは殆ど関心を持たれませんでした。もう諦められていたんでしょうね」
「要領も悪くてね。結局、僕が相続したのは親戚中が厄介がっていたこのお屋敷だけ。しかも、物持ちがよくてね。不動産屋には屋敷を潰してさら地にすれば、すぐ売れると言われたんですが、どうにも、できなくて・・」
そう言って、康介は頭を掻きながら君子を見て笑った。君子も笑った。
「僕はこのお屋敷が好きになり始めている」
康介は再び星を見上げた。
「私もです」
君子も星を見た。
「全然機能的じゃないけど、とても、心地良い」
「はい」
「最初は、厄介なものを背負ってしまったと思ったんですが、これがなかなか良かったと今は思っています」
「はい」
「それに・・」
「それに?」
君子は康介を見た。しかし、康介はそう言ったなり黙ってしまった。
「あの・・」
しばらく経って再び康介は口を開いた。
「はい」
「これからもこの屋敷に来てくれますか」
康介は君子を見つめた。
「はいっ、喜んで」
君子は心からの笑顔で答えた。康介も笑った。二人はお互いを見つめ微笑むと、再び夜空の星々に見入った。
心地よい波の音と共に、夜空に瞬く星々は無限の時空を照らしていくようにいつまでも輝いていた。
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