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そのお手伝いさんの名前は君子といった。君子は、週四日、朝九時にこの屋敷にやって来ては、夕方四時まで、広大で無数の部屋と棚のある空間を隅々まで、せっせと丁寧に掃除して回り、次の日はその続き、そのまた次の日は、またその続き、広大な屋敷全部を一通り終わる頃には最初に掃除したところがまた埃が積もっているといった具合で、そんなルーティーンを無限に続けていた。
君子はいつも不思議に思っていた。この館の主は日がな一日いつも同じ、洋館の入り口の階段に座って何をするでもなく一人ぼーったたずんでいる。
「この人はいったい何をしているのだろうか?」
それ以前に、どんな人なのか。訳を尋ねようにも、この主とはほとんど口を利いたこともない。挨拶すらも殆どしたことがなく、お互い存在しないかのような空気みたいな関係になっていた。この主が動く時といえば、時々、思い立ったように敷地の庭に敷き詰められた綺麗な厚い絨毯みたいな芝生を手押し車みたいな芝刈り機で刈る時くらいのものだった。しかし、何が楽しいのかこの時のこの主は何とも楽しそうだった。
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