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康介は、きょとんとしていた。
「あ、すみません。余計なことを」
君子はなんだかやっぱり怖くなってきて、素早くそう言って頭を下げると、その場を立ち去ろうとした。
「僕はこの場所が好きなんです」
康介はそんな君子の背中に言った。君子は再度振り返った。康介は純真無垢な子供みたいに嬉しそうに君子を見つめていた。
「僕はこの場所が好きなんです」
康介は改めて言った。
「はあ」
君子は意味も分からず、その場に佇んでいた。
「よかったら君子さんも座りませんか」
「えっ」
「君子・・、さんでよかったですよね?」
「は、はい」
「ここに来れば分かると思います」
康介は笑顔で言った。
「は、はい」
君子は康介の隣りに同じように、おずおずと穿いていた長い地味な黄色のスカートを両手でたたみながら膝を抱えて座った。
「どうですか」
「はあ」
その場所は確かに不思議と心地よかった。屋敷と洋館のヒサシがちょうど、木陰を作り、庭に植えられた数々の木々の間から心地よい風が流れてきた。そして庭に敷き詰められた芝生が青々と輝き、強烈な緑の香りを放つ。そこに、どこかしら、海からの潮の香りも漂ってくる。
「確かに何か・・」
「でしょ」
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