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康介は、君子の言葉をすべて聞く前にもう納得していた。
「この場所は、とても居心地が良いんです。そして飽きないんです」
康介は嬉しそうに言った。君子はそんな康介の横顔を覗くが、全く心の底から言っているようだった。
二人は、その場所に黙って座ったまま、しばらくその心地よい風を感じた。
「私は生まれた時から体が弱くて、でも、一日寝ているのも嫌なので、天気の良い日はいつもここにいるんです」
耕助が、庭の木々を見つめながら言った。
「そうだったんですか」
「体の調子の良い日は芝刈りをします」
康介は、青々と立派に刈られた芝を自慢げに見つめた。
「あの、もう一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
君子はもののついでだと思い、思い切ってもう一つ疑問に思っていたことを訊いてみた。
「なんでしょう」
康介は優し気な表情で隣りの君子を見た。
「なぜ、私だったのでしょう」
「はい?」
「なぜ私だったのでしょう。私なんかよりも、もっと優秀な人はいたはず。あれだけの良い条件でしたら・・」
「ああ、なるほど、そういうことですか」
「なぜ、私だったのでしょう」
君子は康介の顔を覗き込むように見た。
「あなたが、一番だったからです」
「はっ?」
「あなたが一番最初に電話してきたからです」
「はあ」
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