星空の下で生まれたモノ

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****  祖母の家は山間の集落にある。小さな畑で野菜を作りながら細々と暮らしてきた。遊ぶ場所といえば公園などではなく、森や川、山の中。  夏休みの間だけここの自然を存分に楽しむ子どもだった。  記憶の中の景色とは少しばかり変わっている所はあるが、風の匂いやおおまかな景色は遠い記憶の中のものと一致している。  最寄り駅からは1日に3本しかないバスに乗るかタクシーしか便がない場所にあるので、地元の車しか車道を走るものはない。  暮らしている場所よりも大きな声でセミたちは鳴き、恋の季節を謳歌している。畑で採れる野菜は瑞々しく、その生を色鮮やかに全うしている。匂いも、音も、すべてはっきりと聴こえた。  その自然の息遣いを感じると、現在の目の前の世界は遠くなり、過去の記憶が色鮮やかに蘇るようだった。 「ばあちゃん、ただいま。」 「あらあらまぁまぁ、おかえりなさい。」  ガラガラと玄関の戸を開ければ、遠くから祖母の声がする。足が弱っているのか、大分ゆっくりと歩いているが、声は記憶と同じもの。幾分か老いてはいるが、こちらに向けられるその眼差しは優しく、あたたかい。     
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