星空の下で生まれたモノ

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星空の下で生まれたモノ

 ガタン―――  やたら大きな扉の閉まる音と共に、外界のすべてのものから遮断される。  ただいま、と声を出しても応える相手がいないので、部屋に戻ってきても口を開くことはない。  右手に下げていたコンビニの袋をテーブルに置いて、荷物を多少乱暴に床へと投げる。ジャケットを皺にならないようにハンガーにかけ、ネクタイを緩めてソファとテーブルの間にへたり込むように座った。  あたためますか、と訊かれた弁当を、無造作に取り出して、いただきます、も云わずに黙々と食べ始めた。食べられなくなったらおしまいだ、という強迫観念にかられていることを気づいていながら無視をする。  仕事で疲れて家に帰ってくるのがやっとの日々。家にさえ帰れない職種もあるのだから、と自分を励ましてみても、それは虚しいだけだ。  今日も色々なことがあった。  社会人になって、学校では教わらない色々なことを経験して、そのひとつひとつに戸惑いながら乗り越えてきたつもりだった。けれど、本当は乗り越えてなんかいないのかもしれない。ただその場しのぎをして、また、同じようなミスを重ねてしまう。  上司の叱責も尤もなのだろう。すべて、自分が招いた結果だ。  味のしないハンバーグと、砂を噛むような白米を口に運び、ペットボトルのお茶で無理やりにでも流し込む。食べることが億劫になっている。食後に頭痛薬を飲まないとやっていられないため、解熱鎮痛剤の減りが速い。  ふと、生温かいものが頬を伝うのに気付いて、立ち上がる。  家に帰ってきたというのに、換気もしていないから気が滅入るのだろう。そんな風に思って、重たい身体を引きずって、窓までいく。  そして、窓を開け――― 「あぁ、夏、なのか。」  むわりとした、湿度の高い熱気が身を包む。もう夜だというのに、この街は眠らない。  工事の音がどこからか聴こえて、車のヘッドライトや店の灯り、どこかで残業しているのかビルの窓からも明かりが漏れる。  ざわざわとした音にまみれると、ふと、耳の奥で別の音が聴こえた。
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