青い薔薇を拒む

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青い薔薇を拒む

 出勤したら、デスクの上に真っ青な薔薇が飾られていた。こんな薔薇は実在しない。つまりこれは、カラースプレーで染めたものだ。  いったい誰がこんなものを? 私はオフィスを見渡した。目に入った背中は、先月まで付き合っていた男のもの。私は薔薇を手に、その男へと近づいていく。肩を叩くと、彼が振り向いた。甘い顔立ちの男は、私をみて破顔する。 「おはようございます、伊坂さん」 「おはよう、羽柴くん。ちょっといいかな」  私は彼の腕を引いて、エレベーターの脇にあるデッドスペースへと連れていく。羽柴は不思議そうに首を傾げた。 「どうしたんですか、伊坂さん」 「嫌がらせなのか知らないが、こういうことをされると困る」  私は青薔薇を突き返した。羽柴はしれっと、 「薔薇、好きでしょう?」 「君とは終わったんだ。私には婚約者がいる。知っているだろう」 「好きでもない──ね」  彼は私のネクタイを指先でなぞった。大丈夫ですか? 伊坂さん。好きでもない女を抱けるんですか? つい先月まで男に抱かれて鳴いてたくせに。誰に聞かれるかわからない場所で囁かれ、私はカッとなる。 「羽柴くん……君ならいくらでも新しい相手を見つけられるだろう。嫌がらせはやめろ」 「そんなこと言っても退きませんよ。俺には別れる理由がありませんから」  羽柴はスマホを取り出し、操作した画面をこちらに向けた。画面に映り込んでいたのは私の痴態。 「!」  私は彼からスマホを奪おうとした。しかし羽柴は私より背が高いため、掲げられると届かない。 「……っ」 「伊坂さんの婚約者に送っちゃおうかな」 「なんてことを」 「撮られるの好きでしょう、伊坂さん」 「消せ」  私が語気を強めたら、羽柴が冷たい目でこちらを見た。 「命令しないでくださいよ。どっちに主導権があると思ってるんですか?」  彼は時折、威圧的な態度で私を支配しようとする。私は彼の思惑通り、びくりと震えた。──いけない。怯えるな。矜持を取り戻そうと、羽柴を睨みつける。彼は私の威嚇に瞳を緩め、今夜いつもの場所で待ってますから、と言った。
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