青い薔薇を拒む

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「幼稚で、浅はかで、他人を慮れない。君は一人きりで死んでいくんだ、羽柴蒼司」  私は彼を呪った。彼が私を呪ったように。羽柴がどんな顔をしているか見もせずに、ドアを閉める。私はドアに背を押し当て、息を殺す。はやく、早くいなくなれ。私の前から消えろ──。 しばらくして、羽柴が去っていく気配がした。私はじっと、彼の靴音を聞いていた。もう痛むはずのない入れ墨がずきりと痛んだ気がして、ぎゅっと胸元を押さえる。私はドアをそっと開いてみた。ドアの隙間に、革靴が挟み込まれる。 「──!」 後ずさった私の肩を、羽柴が掴んだ。 「俺を捨てるの?」 彼は暗い目でこちらを見ていた。殺される。そう思った。乱れた前髪が彼の片目にかかっていて、いっそう狂気を増幅させていた。私は反射的に羽柴の首を絞め返した。双方ギリギリと首を絞め合う。どちらかがどちらかを殺すまでそうするのだと思った。 しかし、羽柴は私を殺す前に手を離した。抵抗しないでください。温度のない声で言って、シャツのボタンを引きちぎった。彼がなにをする気なのかはわかったが、抵抗する気力は湧かなかった。私を犯して満足するならそうすればいいのだ。彼が得られるものなどない。私は、畳の上を転がっていった小さなボタンを眺めた。     
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