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御愁傷様でした。私はその言葉を口にする前に、部屋の端にある白い箱を見てしまった。あの中にいるのだ、羽柴が。茶を飲んだばかりなのに、喉が渇いていくのを感じた。
「御線香を、あげさせていただいてもいいですか」
「あ、はい」
私は棺桶の前に座った。パラパラと香木を散らすと、焼香の匂いが漂う。手を合わせると、数珠が鳴るかすかな音が響いた。私は手を合わせたまま口を開く。
「羽柴くんは、なぜ……」
「急性心不全だそうです。いきなり会社で倒れて……」
私は、控え室にいるのが私たちだけだということに気づいた。羽柴の両親はいないのだろうか。私たちは、両親を早くに亡くしました。千紗はそう言った。彼らには面倒を見てくれる親戚もいない。だから羽柴兄妹は施設で育った。受け付けにいたのは、同じ施設で育った子だという。
「兄は昔から、一人でいることが多くて……でも、私には優しい人でした」
顔を見てあげてください。千紗は棺桶の覗き窓をそっと開いた。
覗き窓から見える彼の顔は蒼白だった。本当の青い薔薇はこんな色だ。青というより蒼なのだ。
「伊坂さんの話を、よくメールでしていました。優しくて、素敵な人だって。私も嬉しかったんです。兄は、ほとんど他人に心を開かないから……」
羽柴の妹が涙ぐんでいる。私がお兄さんを呪ったんです。悲嘆にくれる彼女に、そんなことは言えなかった。
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