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人の習性で足の遅い物には、つい目が引き込まれがちになるが、そんな本能的な理由では無く電波監視官としての勘が足を止めさせた。
何だか不気味だな……今、電波障害が発生している中で、あの電車の鉄道無線は正常に通じているのか? もし非常事態が起きた時、緊急無線が通じなかったら最悪だ――――。
「先輩!」
新人職員の一声で、瞑想の沼から引き揚げられ、彼女に目を向ける。
「先輩。測定器の数値が変化しましたよ」
「ぁあ? あぁ……」
測定器を覗く後輩へ、十和田は生返事で答えた。
さすがに考えすぎか――――。
彼は箱型の測定器の液晶画面を見る。
「おぉ!? こっちの方角に反応があるぞ!」
十和田は計器が示す方向に、導かれるまま足を運ぶ。
電車が通り過ぎた後の踏切を進む、自由奔放な先輩監視官に後輩は泣く泣く付いて行く。
「先輩! 調査範囲は線路の南側ですよ!? 決められた範囲外を行くと、また課長に怒られます!」
一〇分程、周囲を探索していくと十和田はある家に前で足を止める。
「この家だな……」
彼が測定器を向けると、反応が強く現れた。
そこは無数の蔓が壁を覆う、古民家のような一件家だった。
まるで眠れる森の美女に出てくる城を彷彿とさせる。
二人の若い電波監視官は、異様な外観に嫌悪するのだった。
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