第4章 風

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「父は亡くなる数日前に確か日記のような物を母親に預けた、と聞きました。  でも、母親は突然亡くなったので、それがどこにあったかを訊く暇がありませんでした。  実家は売却して両親の持ち物は捨てたので、殆ど残っていないのですが、母の好きだった服や本などは捨てられずに段ボール箱に3箱持ち帰りました。まだ整理していないのですが、何か出て来たら連絡しますね。」  山岸栄太さんの元妻である伊藤景子さんは更地となったコンビニ跡の近くの喫茶店でそう言った。 「一つ気になる事があるのですが、お訊きしてもいいですか?」  芽亜里が言うと伊藤景子さんは、コーヒーカップをソーサーに置いて顔を上げた。 「お父様の久雄さんが亡くなった時の事ですが、お父様はそれ以前に癌にかかった事はあったのですか?」 「ああ、私もそれが長い間引っかかっていたんですが・・・・。  父はとても丈夫な人で滅多に風邪もひかないし、入院した事もない人でした。  それなのに突然、癌になって3週間で痩せる暇もないくらいに早い期間で亡くなりました。家族は何が起こったのか分からない、という感覚で取り残されました。  まるで癌に感染して亡くなった、という感じでした。」  芽亜里は伊藤景子さんの最後の言葉に反応して大きな瞳を見開いた。 「癌に感染・・・・、ですか?」  伊藤景子さんは、芽亜里の顔を動揺した様子で見つめながら頷いた。 「はい・・・・、私と母と夫でそんな風に言った事がありました。」
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