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第5章 父さんの話
俺と芽亜里はバスを降りて父さんのアパートに向かっていた。
「疲れませんか?向かいの喫茶店で休みましょうか?」
芽亜里は無言のまま歩いている俺を気遣ってか、そう言った。
「ええ……。ちょっと疲れました。さっきの話が……。太田さんの説教でもしてやろうか、って言葉が応えました。
太田さんは、俺が幼児の頃から家に遊びに来ていて、親戚みたいな人だったから……。」
俺の言葉に芽亜里はいつもの気の毒そうな表情を浮かべた。
「分かります。私も今年の春に父親を亡くして、父親っ子だったから……。
今年の春に、肝臓癌で亡くなりましたけど。」
芽亜里は眉を曇らせてそう言った。
「あ、すみません……。
俺のろくでない親のせいで、芽亜里さんに悲しい事を思い出させてしまって……。」
俺は泣きそうな顔の芽亜里を見て慌てた。
「いいえ、大丈夫です。
弱さに負けないで強く生きろと、父に言われましたので。それが遺言なんです。
時々負けそうになりますけど、色々助けてくれる方が現れて私は幸運だと思っています。」
芽亜里はうつむいて呟くように言った。
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