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第2章 芽亜里との仕事
「何言ってるの?自分の父親に会うのに何で探偵さんに雇ってもらわなくちゃならないの?勝手に会って話せばいいでしょ。」
母親は呆れたような顔で言った。
芽亜里も困惑した顔で俺を見た。
「いや、対面したら修羅場になって逆効果になると思う。隠れて真相を確認したい。そうじゃなきゃ離婚は承認できない。」
母親はまた俺を凝視した。そしてフッと笑った。
「気持ちは分かるけど無理でしょう。ねぇ、藤木田さん。」
「確かにご親族の方が現場に同行するのは探偵の世界ではタブーになっています。」
芽亜里は下を見て少し黙った。何か考えてからまた俺を見上げて言った。
「でも、私の所は探偵事務所としてほとんど成り立っていないので、個人的な旅行に同行した、という事にできますが……。それに……。」
芽亜里はまた沈黙した。
「それに…何ですか?」
母親は少し苛立ったような声で言った。
「それに……、この件はちょっと違和感を感じるのですが。」
芽亜里は誰とも視線を合わさずに言った。
「どういう意味ですか?それは。私が嘘を言ってるというんですか?」
母親が尖った声を出した。
「いいえ、誰も嘘は言っていないので、それがむしろ不思議な感じがするのです。」
芽亜里が言うと母親はすかさず言った。
「どういう事ですか?貴方、今、探偵事務所としてほとんど成り立っていないので、と言ったじゃないですか。経験があまりないのにどうして、そんな事が言えるのかしら?」
母親の苛立ちに気が付いていないかのように芽亜里は母親を直視して言った。
「私の父は探偵を40年やっていましたが、浮気調査の場合、奥様は夫を憎むあまり状況の説明に大なり小なり悪意が入っています。そしてもう愛情は冷めきっていて、早く縁を切りたい、という気持ちが現れているものなんですが、それがこのご家族はお父さんをとても愛しているように見えます。奥様も夫をとても愛しているように見えます。失礼な言い方だったら謝ります。」
俺と母親の杏子は顔を見合わせた。
「確かに夫は今まで浮気をした事はなかったと思います。私も怪しいと思った事は今までありませんでした。今回を除いてはね。だから……、ショックが大きくて……。」
母親はまた涙声で言った。
「だからこそ、息子さんと一緒に確かめるのは、逆にいい事かもしれません。」
芽亜里は俺を見上げて言った。
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