牛の逸物

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牛の逸物

粗末な柴の庵には、今日もたくさんの患者さんがお見えになります。 癒すのは小生の御主人、美しい僧侶の空穏(くおん)さん。空穏さんは旅の勧進聖(かんじんひじり)でらっしゃいましたが、縁あって小生と共にこの村に住みついております。 今日いらっしゃる患者さんは綺麗な娘さんですが、恋のお悩みがあるようで。 かれこれ五百年を生きる神獣である小生の話を聞いてみたいとおっしゃってーーあ、申し遅れましたが、小生は雄牛、名を塩竈(しおがま)と申します。少々肥えすぎた立派な黄牛(あめうし)にございます。 「本当に小生のことを知りたいのですか? そら恐ろしいお話ですよ……」 「ええ、ぜひ聞かせて欲しいわ!」 娘さんの熱意に負けて御主人を見上げますと、 「話してやれ塩竈」 とこうなので、かゃかちゃと短い前脚を組み直しまして、長いお話を語ることに致しました。
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