26人が本棚に入れています
本棚に追加
2
この時代に来て二週間が経った。
明け方近くまで酒を飲み、昼頃に渋々起き出して活動を始めるような暮らしを長年続けていた俺が、暗くなれば寝て明るくなれば起きるという、至極健康的な生活をしている。
「ん……」
窓から差し込む朝日に頬を擽られて瞼を開く。
三分の一ほど開いた扉の隙間から漂ってくる、食欲をそそる匂いに誘われて体を起こすと、右手首の違和感に気付いた。
毎朝目覚めると、新しい布に巻かれ直されていたそこ。だが、今朝は何も巻かれていない。
右手首を目の高さまで持ち上げて、患部を確認してみる。腫れは完全に引いている。
軽く左右に捻ってみるが、痛みは感じない。グッと拳を握っても、微塵も痛みは走らない。そのまま調子に乗ってシャドウボクシングをしてみるが、なんら問題はない。
「怪我、治ったようだ」
寝室を飛び出し、ダイニングテーブルで朝食を食べようとしているところだったソレに右手首を見せる。一瞬だけ視線を向けたソレだが、昨日収穫していたキュウリを口に入れ、シャリシャリと音を鳴らして食べ始めた。
「いい音だな」
俺も席につき、完治した利き手でキュウリを掴んで齧りつく。瑞々しさと小気味いい歯応えに、ぺろっと食べきってしまう。
「ごちそうさん」
そのあとに続く旨かった、の感想は今日も飲み込んで手を合わせる。いつも通りに俺の言葉は無視し、ソレは黙々と食事を続けている。
ソレが食べ終わったところで、空になった皿を手早く掴んでシンクまで運ぶ。
「怪我は治ったんだから、やれることは手伝わせてくれ。といっても、力仕事くらいしかできないがな」
俺のあとを追いかけてきて、不快そうに眉を寄せているソレに告げる。
皿を洗うくらいはできるが、大雑把な俺のやり方にソレの機嫌が更に急降下する恐れがあるので、用は済んだとばかりにキッチンスペースから退散する。
「手伝うことがあったら呼んでくれ」
ソレに一声掛けて外に出る。
午前中は、室内の掃除などをしている様子のソレ。何をしているのか詳しく知らないのは、ここに来た翌日、室内にいられては邪魔だとばかりにソレに睨まれ、昼食までは畑の脇に立っている古木の根本で寛いでいたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!