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声を掛けたはいいが、ソレから手伝いを頼まれることなどないだろう。
ぼんやりと小屋を眺め、外敵から身を守るように棘だらけの空気を纏い、黙々と働くソレの姿を思い浮かべる。
ふと、いつものくせで地面にしゃがみ込もうとしていたことに気付き、慌てて腰を上げる。何もするな、と言ったソレに見せつけるようにダラダラと過ごしてきたが、そろそろ動かないと仕事に支障をきたしそうだ。
ジリジリと肌を焦がす真夏の太陽光を遮ってくれる木陰で、鈍った体を鍛え直すトレーニングを始める。
昼食を終えると、夕食の時間までソレは外で過ごす。
畑仕事をしたり、森の中に入って食材を確保してきたりしている。森の中での行動は、例の如く詳しくは分からない。
今日も昼食の片付けを終えると、外に出ていくソレ。
因みに皿の片付けは、昼も俺がやった。ソレの皿が空になった途端に素早く掴み取るのは、ゲームのようで楽しい。
黙々と畑仕事を始めたソレが、徐に空を仰いだ。雲ひとつない抜けるような青空を、一心に見つめている。
すると、小屋の裏に向かって歩き出した。何をするのだろうと、畑の脇の古木の根本に座ったままソレの動きを目で追う。
裏から戻ってきたソレは、ソレの身長の倍近くある梯子を手にしていた。
小屋の壁に梯子を立て掛けて、曲芸師のように一気に上り詰めたソレは、屋根に向かって手を伸ばしている。何かを懸命に取ろうとしているようだ。
目的のものが取れたのか、腕を戻したソレが梯子を下り始めた。
四段ほど下りたところで、ソレの手元から何かが飛び立った。若葉のような淡い緑色のものが、空の彼方に消えていく。
あれは鳥だろうか? ぼんやりと緑の何かが消えた先を眺めていると、視界の隅に不自然に揺れるものを捉えた。
「危ない!」
状況を理解する前に体が動き、咄嗟に腕を伸ばした。梯子ごと俺の腕の中に落ちてきたソレを受け止め、何かの芽が出始めたばかりの畑に倒れ込む。
「大丈夫か?」
胸に埋まっているソレの顔を覗き込もうとすると、猫のように素早く飛び退き、梯子を掴んで小屋の裏に駆けていってしまった。
情けない場面を見られて、羞恥に耐えきれなくなったのだろうか? いたたまれなくなる気持ちは俺にも分かるので、追い掛けはしないでおこう。
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