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「あんたは、どこから来た?」
呼吸すらしていないのではないかというほど静かだったソレが、ポツリと呟いた。
初めてソレから会話を振られたことに驚いて振り向くと、思いを馳せるように光を見つめていた。
「遠い、遠い世界だ」
「湖の向こうか?」
「へ?」
「この湖の底は、遠い遠い国と繋がっていると聞いたことがある。母さんもそこから来たそうだ」
「母さん、か」
棚の上に置かれていた写真たての中の、金髪の女の姿を脳裏に浮かべる。
女は先の時代から来たトリッパーだとは告げずに、そんなお伽噺をソレに語っていたのか。
「あんた、家族はいるのか?」
「いや。俺は捨て子だ」
俺の返事に、ソレが息を呑んだのが分かった。
「憐れんでいるのか?」
「いや、オレもあんたと同じだ」
「同じ?」
ソレには、ちゃんと家族がいたはずだ。何故、捨て子の俺と同じだなんて言うのだろう?
「八年前、父さんと母さんに捨てられたんだ」
そう辛そうに呟いたソレが、両親が始末された直後のことを、途切れ途切れに語り始めた。
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