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「ん……」  軽く頬を叩かれて、沈んでいた意識が浮上してきた。  ぼんやり瞼を開いた先にいたのは、生気を感じさせない真っ白な肌。色素のない透明な髪。血が固まったような紅い瞳をした、少年期を脱したばかりだと思われる青年だった。 「天使? ここは天国か?」  初夏の日差しを浴びてキラキラと輝いている青年は、神など信じていない俺でも神々しさを覚え、思わず祈りたくなるほど美しかった。  救いを求めるように、そっと手を伸ばす。  だが、その手は見事に払われた。お前は天国に来る資格などない、と突き放すように。 (好きで人殺しになったわけではないのにな)  一抹の寂しさを覚えながらも、当然の仕打ちに自嘲する。  地獄の門番に叩き起こされるまで一眠りしよう。そう思って瞼を閉じると、一時の安眠も許さないとばかりにパチパチと頬を連打された。 「分かった、起きるからやめろ」  渋々目を開けると、感情の読めない紅い瞳と目があった。  白昼夢のようだった先程の光景は、現実だったというのか?  青年のシャツが所々濡れているのが目に入り、思い出したように自分の体を確認する。湖に浸かったままだった下半身は陸に上げられ、びしょ濡れだったサバイバルスーツも半分ほど乾いている。  この青年が、引き上げてくれたのだろうか? 「お前、この近くに住んでるのか?」  俺の問い掛けに、青年の瞳が僅かに見開かれた。  感情が伝わってくる動きに、なぜだか胸が弾んだ。 「道に迷っちまったんだ。暫く泊めてくれないか?」  いきなりプライベート空間に入れてくれと頼まれて困惑したのか、唖然とした様子で俺を見ていた青年だが、不意に立ち上がって歩き出した。  無言は了承だと捉え、その後をついていく。
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