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 ソレの住居は、人里離れた山中にひっそりと建っていた。  ロッジ風の小屋は、この時代の資料として渡された画像の家と比べて質素なものだった。  周辺にはソレ以外の匂いが全くなく、ソレからも他人の匂いがしない。  小屋の前には畑があるし、山には自然が溢れている。完全自給自足の生活で、他人とは一切接触していないのだろうか?  そんな予想は、小屋に入って確信に変わった。 「座らせてもらうぞ」  ソレは何も言わないので、勝手にダイニングテーブルの椅子に座り、室内を眺める。  すると、ギチギチに本が詰め込まれた棚の上に置いてある写真たてに目が留まった。中には、黒髪の男と金髪の女が、親しげに肩を寄せあっている写真が収まっていた。  金髪の女には見覚えがある。渡された資料に載っていたのと同じ女だ。  女は、政府の仕事で正式にトリップした正規トリッパーだった。だが、トリップ先の時代の者と接触してはならないという掟を破り、写真の男と関係を持って《穢れ》を生んだ。  ソレの両親である彼らは、八年前に始末されている。何故だかソレの存在は知られずに、始末を免れたようだ。  ソレの存在に気付けなかった無能な審判者に感謝したい気分だ。《穢れ》を始末するチャンスは、なかなか巡ってこないからだ。  《穢れ》は、手応えが違うという話だ。仕事後の高揚感が格別らしい。 (こんな下劣な野郎、地獄でさえも受け入れを拒まれるかもな)  乾いた笑いが漏れそうになる唇を噛み締めていると、コトンとテーブルに皿が置かれた。  俺の前と正面の椅子に座ったソレの前に置かれた皿に盛られているのは、野菜がたっぷり入ったトマトベースのスープで、もくもくと湯気が上がっている。  ソレは俺には目もくれず、スープを口に運び始めた。  頑なに目を合わせないのは、意識している証拠だろうか。そんなことを考えながら、負傷していない左手でスプーンを握ってスープを啜る。 「お前が作ったのか?」  シンプルだが、深い旨みがあるスープに目を瞠る。  俺の生きる時代でも、食事はこの時代のものと大差はない。だが、野菜は全て工場での水耕栽培だ。  一つ一つの野菜の味が濃くて深みを感じるのは、太陽光を浴びて土の中で育ったからなのだろうか。小屋の前にあった畑を思い浮かべて、そう考える。
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