海と色づき

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 悠仁は一七四センチで、私と一六センチ差だった。計測員、あと一センチくらいサバ読んでくれないかな、と笑いながら、右手を休めるようによく私の頭に手を置いた。せっかくストレートパーマを当てている髪の毛を崩されたくないから、その度に私はむくれた顔を見せて、だけど振り払いはしなかった。  二人とも、海の近い街で生まれ、育ってきた。彼とは高校一年から同じクラスで、席が近いから話すことが多くて、帰り道が途中まで一緒だからさらに打ち解けて、気が付いたら、砂浜の上で告白をされていた。  彼の親はマリンスポーツ関連の店を経営していた。特に夏場になると彼も精力的に手伝っていて、そのせいで、焦がしたコッペパンみたいになっていた。一度、どこからが髪の毛か分からないよ、と言えば、これなら分かる? と前髪を上げておでこをくっつけてきた。ロマンチックにやったつもりなんだろうけど、鼻の頭だけが赤くなっているのがおかしくて、笑いながら、唇をくっつけた。  デートは、都会にショッピングに行ったこともあるけれど、バイトもしていない高校生だから自然と海に行くことが多かった。一緒に海岸線を歩けば、小さい頃から見慣れていた、真昼の太陽に輝く海も、夕日を閉じ込めていく真っ赤な海も、曇り空を映し出す淀んだ海も、全部が新しいものに感じられた。きらめいている海はルビーやサファイアみたいで、淀んでいる海にも洋銀のようなシックな輝きを見出した。初めて手をつなぐ瞬間も、恋人つなぎも、キスも、いつも海が見ていた。それって人魚みたいだね、と彼は言った。全部の儀式を海と共に行う、私はマーメイド。
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