海と色づき

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 初めてのセックスは、さすがに海じゃなかったけれど、海の傍にある彼の家だった。窓を開ければ夏の星空と海、そんな甘美な景色の横で、彼の筋肉質な腕は、意外なほど優しく私の肢体をまさぐってくれた。暗い部屋だから悠仁の体見えないかも、なんて冗談を言うつもりだったけれど、彼が与えてくれる愛しさにうっとりとして、おかげで彼の姿はキスで目を閉じる時以外一度も見逃すことがなかった。  きよみ、と言われると、頬が暖色に染まっていく。この日のためにこう呼んでくれていたんじゃないだろうかとさえ思った。たくましい腕も、たぶん必要以上に力を入れている腹筋も、海の仕事で鍛えられた証。彼の下半身の一部だけ日焼け跡がないのには途中で気付いた。暗闇の中に明るく浮かぶ、ずっと秘められていた色。彼の体のパーツの中で、この白い色を見ることができるのは私だけなんだ、と不思議な優越感を覚えていた。やがてその場所から白い液体を出して、彼は貪るように私の舌を舐めた。  行為の余波に浸りながら窓を開けると、波の音が聞こえる気がした。実際は車の音にかき消されるけれど、確かに私の体はしぶきの音を掴んでいた。 「生き物って、海から生まれて、海に帰るんだね」 「そして、また次の命が海から生まれてくるんじゃないか」  自分の汗と、下半身の湿り気と、彼の汗と唾液と。柔らかい液体に浸りながら、お腹の奥が揺さぶられる感じを覚えていた。いつか将来、ここに新しい海ができるんだな、と。それを作ってくれるのが、彼であったらいいのに、と。
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