来店

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シュワシュワ。 蓋を開けたときのあの独特な音が心を駆け巡る。 ドキドキ。綺麗だよね、宝石みたいだよね。だから、 「あげるよ」 しかしその声は常連の盛大なくしゃみにかき消され、ビー玉は返される。ありがとうございます、と素晴らしい笑顔付きで。しょんぼりと祖母の居るカウンター側に、店員側に戻りパイプ椅子に腰掛ける。 「おやおや、今の子は花束よりビー玉かい?」 客の支払いをしながらケタケタと笑われる。違うよばあちゃん、たぶん花束の方が喜ばれる。でも、 「でも、そうでもしないと忘れられるから。。。あの子が好きなビー玉で覚えててもらえたらなって。あー来年も忘れられてるだろうな。」 自分で言っているのに虚しい。 「だってさ」と祖母が客にニマリと笑いかける。は?パイプ椅子から跳ね上がる。ダークブラウンの髪が俯いてる顔を隠している、が赤いのは隠せていない。つられて赤くなるのが自分でも分かる。 「あ、あの!」 声が重なる。もう彼女の顔は茹蛸状態。ごめんな、せっかく涼みに来たのに。 「私、今日帰るん、です。でも、その、また来年来る、ので。多分。あの、それでは。。。ごちそうさまでした。」 パキ。シュワシュワ。炭酸が抜けた筈のラムネなのに。ドキドキ。ワクワク。走り去りながらもドアは静かに開けて閉める彼女を見てぼんやりと思う、あぁ早く来年にならないかな、と。 * みーんみーんと気が狂いそうなほどセミが鳴いている。昼飯を食べ終えて丁度眠くなる頃。学生達は今頃眠気と闘っているだろう。 「うるせぇ。。。」 俺の声が届いたのか、大合唱が止む。 カッラン。優しくドアが開かれる。 またこの季節がやってきたのか。いいや、やっと来たのか。 カラン。音も無くドアが閉まる。 いらっしゃいませ、と笑顔で振り向く。にやけてないかな俺。 通り風の拍子でダークブラウンのクセッ毛がサラッと肩から滑り落ちる。こげ茶の瞳がきらりと光り、涙袋がぷくっと浮く。眩しいくらい可愛らしい笑顔。 「ラムネを一つお願いします。」 シュワシュワ。パチパチ。 今年も夏がやってきた。
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