来店

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* 「あっつい。。。」 ここで働き初めて二年、最近の楽しみはベルの鳴り方で客を当てること。たとえば。。。 カッラン。恥ずかしそうにひっそりとベルが響く。独特な、それでいてどこかで聞いた事がある鳴り方。カラン。あぁ、この鳴り方は確か。。。静かに閉まったドアの前に立っていたのはやはり二年前の少女だった。ライトブラウンの髪も背丈も少し伸びたけれど二年前のあの子だ。 どうぞ、と席に案内しラムネを差し出す。びっくりした顔で見上げられこげ茶の瞳と目が合う。ドキッ。ふと目が細められ涙袋が浮かぶ。あ、可愛い。 「どうしてラムネだってわかったんですか?」 「え」 そこで気づく、注文を取らなかったことを。「いや、二年前は来るたびにラムネを飲んでたので。つい。。。」 「二年前?」スッと涙袋が消え、こげ茶の瞳がダークブラウンに変わる。 「あ、いえ。申し訳ありませんでした。どうぞごゆっくり」 忘れられてたかー。すこし落ち込んだ気分でカウンターに戻りつつ横目で彼女を眺める。大人っぽくなったな。彼女は瓶にそっと触れ滴る水滴を拭い、グラスにラムネを注いだ。そう二年前と同じように。 シュワ。気づいたら彼女に駆け寄り問う、 「ビー玉はお好きですか?」 駆け寄る前に適当に手に取った今流行りのクラックビー玉というやつを差し出す。 唇がフルッと震える。パチパチ、と瞬きが増える。今度はダークブラウンからこげ茶に変わる瞳。あ、この目。 「見てもいいですか?」 オズオズと訊かれる。 どうぞ、と差し出す。俺テンション高すぎじゃね。恥ずかし。 ビー玉を手渡された彼女は手の平でそれをコロコロと転がし何かを探っている。ふとその手を止めビー玉を指で摘み目に近づける。いや、透けて見えないぞと言う突っ込みは即座に飲み込んだ、 「きれい」 吐息のように放たれたその言葉はラムネの炭酸のように消えた。窓ガラスから差し込む光がビー玉の割れ目に反射され彼女の眼を涼しい水色で彩る。
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