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アリの大行列のように花火会場に吸い込まれていく人々を眺めながら、結花の頭はフル回転だ。
(来たら、なんて言おう)
可愛く「もう、遅いよ!」とむくれてみせるか、ちょっと真剣に「事故とかじゃなくて良かったー」と心配してみせるか、「かき氷おごってね!」とねだってみせるか。
どのアクションが一番彼の心を捉えるのか。
(難しい……)
悩んでいると、あっと言う間に時間が過ぎる。もう待ち合わせ時間を5分過ぎた。
○○○
時計を見ると、待ち合わせの5分過ぎだった。
むしゃくしゃした気持ちを持て余しながら、スマホのフリックに渾身のチカラを込める。
『遅刻は人のことを考えてない恥ずべき行為じゃなかったっけ?』
『今、どこ』から始まったメッセージの履歴は、一向に既読にならない。
(遅刻すると怒るのはどこのどいつだよ)
自分のことは棚に上げて、遅刻とはいいご身分だな。思ったのとほぼ同時にスマホに叩きつけて送信する。
中林はひとしきりメッセージを送るとため息を吐いた。30にもなった大の男がどんなに恥ずかしい思いで浴衣姿でいるか、わからないからこんなことができるのだ。
(着てこないと1週間口きかないって言うから着てきてやったのに)
肝心の本人はさっぱり現れない。
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