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左手で音叉を振り小太刀を共振させつつ、すーーと滑るように地面を駆け抜ける。
流星の軌跡に見穫れる暇も無く間合いを詰め空中に浮かぶ手首にその刃を突き立てれば、手首はかしゃんとガラスが砕けるような音を立てて砕けた。
そこで手首は少女を自分の敵と認識したのか、少女を掴もうと無数の手首が少女に襲いかかる。
少女は左手でシャンシャンと音叉で空気を叩き、右手の小太刀が白銀に共振する。
「無駄だよ」
四方からの攻撃を鶴が羽ばたくように舞って躱して返す動きで手首を砕いていく。
瞬きする間もなく全ての手首は砕け散り、地面に落ちる前に砕氷の如く蒸発していった。
「ふうっ」
全ての手首を砕いて少女は一息付くと俺の方に向かってきた。
「大丈夫?」
少女は心から俺の安否を心配して問いかける。決して義理とか義務ではない、見も知らずの取るに足らない俺のことを気づかってくれている。
決して怪異退治のついでに俺を助けたんじゃ無い、俺を助けるついでに怪異を退治したんだ。
「平気なようだね良かった」
その顔は母のように全てを包み込む柔らかさがあり、先程まで戦っていたときに見せた月光すら弾き返す氷のような凜々しさは氷解している。
「いい、今日のことは悪夢だと思って忘れなさい」
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