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「もう一度、言うよ。僕は君を助けられる。君を助けたいんだ」
マノメは威圧感を感じさせる顔で、訴えてきた。まるで、窮地に陥った恋人に手を伸ばそうとするような顔に、私の心は死んでいく。正義感が強い、力を持ったアルファからの救いの手。
でも彼の瞳の奥にある、どす黒い思惑がちらちらと見え隠れし、私は心底、恐ろしくなった。マノメは、罠を張って獲物がかかるのを待ちわびるハンター。認めたく無いが、私は彼の考えがよく分かるのだ。
「ヨシユキ」
「何だい」
「私とお前は、確かに血がつながっているんだろう。それか近くにいるのが長過ぎたせいかも。私は、お前の考えてることが分かる」
「へぇ」
マノメの瞳が刃物のように尖り、物騒な光を放つ。私は薬指にはめた指輪を、右手の親指でゆっくりとなぞった。
「もし、私が助けて欲しいと言ったら、お前は本当に助けてくれるんだろう。でもそうしたら、マサキは?お前は私を助けても、私の夫は助けない。お前はきっと適当な理由をつけてM―0421をコミュニティ送りにするだろう」
「ふふ……うん、それで?」
続けて、と笑顔で促された。美形だから、感嘆する笑顔だ。こいつの内面を知りさせしなければ、の話だが。私は深く息を吸った。
「でも私が出兵すれば、お前はマサキを手元に置くしかない。私が大切にしているものを貰うって言ったね。そうだよ。私が愛している人だよ。私が母親と同じくらい、愛情のある人だ。だからお前はマサキが例え不妊のオメガだったとしても、コミュニティに送れない」
マノメの目から、光が消えた。思案気に首を傾けて、頬杖をついた。白いテーブルクロスに、仕立ての良いスーツを着た美男子は絵になるなと、他人事のように感じた。性別、家柄、容姿に地位と富と権力。全てを持った、私の異母きょうだい。
「だから私は、行く。お前はどんなにマサキが気に食わなくても、お前はマサキを手元に置くしかないんだよ。お前はきっと血のつながりのために、私を助けようとしているんだろうけど、私は、私が愛している人を助けたい。それがどんな形になってもね」
「――それが君の答え?」
明るい声だった。というか、無理やり上向きにしたような声だった。マノメは怒りを鎮めようとしている。笑顔の裏に隠された彼の激情を、私は首を縦に振って、受け入れた。
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