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外から引っ張っても、びくともしない筋肉に覆われた腕。私はマノメの両腕の内面に手を滑り込ませて、自分の腕を思いっきり広げた。
マノメの凶暴な熱を発する腕が、微かに揺れたところで、もう一度力を入れると、頬に張り付いていた手がふっと離れた。
と同時に、ガチャンと耳障りな音がした。床を見ると、茶色い染みだらけになったカップがコロコロとのたうち回っていた。
私は飛び上がるようにして、立ち上がり、後ろに下がった。全身の神経が露出してしまったのか、体の震えが止まらなかった。
身を守るように、私は腕を組む。マノメは椅子に座ったまま、滑稽な私の姿を、冷たい目で見ていた。
「ユキ」
突き刺すような視線とは裏腹に、優しく撫で上げる声だった。聞き分けの無いガキを目の前にした、教師。
「なんだよ」
「僕と君の夫だったオメガは子作り量産機。そしてベータの君は一平兵というシステムに組み込まれた。君と夫だったオメガとの関係がどんなに愛あるものだったとしても、跡形も無くなってしまったんだよ」
「だからなんだよ。私の中には、マサキとの思い出がある!これは確かなものなんだ!私とマサキが結婚して、家庭を築いた。その痕跡が無くても、私の中には思い出があるんだ。だから、マサキの中にだってきっと」
目の前がぼやけてきた。気がついたら頬が濡れる感覚がして、私は急いで目を拭った。正直、涙が出てきたことに驚いた。マサキと引き離された時に、涙なんて枯れ果ててしまったと思ってしまった。
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