マノメ・ヨシユキ

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マノメ・ヨシユキ

 僕の父は、マノメ家の事業を総括する時期当主として生まれた。そして母は、マノメ家の事業をより拡大するために、大手流通会社社長の娘として、マノメ家に嫁いできた。  より豊かに、血族を肥え太らせるための結婚で、そこにははっきりとしたビジネスは合っても、それ以上の関係が、二人の間に生まれることは無かった。  だからなのか、父と母の間にはなかなか子どもができなかった。これがどれくらい不幸なことかは、僕は想像を巡らせるぐらいしかできない。  マノメ家の家長として、跡取りを作ることは絶対であった父親はとにかく子どもをと、外に何人もの愛人を作った。それは従来、想像するような愛人では無かった、彼女たちは愛人というよりも、子産みマシーン。そしてもちろん、僕の母も、その子産み女たちの頭数に入っていた。  とにかく子どもを、アルファとして子孫を、マノメ家の跡取りが、何でも良い。とにかく子どもを。  方々から急き立てられる声に、僕の両親を疲弊し、狂っていった。マノメの家長としての役割を、アルファとしての役割を果たそうと、狂気の淵を渡る矢先のことだった。僕が生まれた。  僕は盛大に祝福されて生まれてきた。なぜならアルファだったからだ。家長としてアルファ性という最低限の条件をクリアしていた僕は、物心つく頃から、父と同じ英才教育を受けてきた。  だが質の高い教育を受けているにも関わらず、僕には理解できないことがあった。それは人との関係性だった。物語を読めば、他者同士が愛し合ったり、憎み合ったり、友情を築く過程が書かれている。特にアルファとオメガが運命の出会いを果たして、子どもを作り、家族を作るなんて、何百回と聞かされてきた。  愛し合った者同士は、自然と子どもを作りたくなるものと思い込んでいた幼い僕は、僕の両親が異質なものに見えて仕方が無かった。  彼らは何だろう。僕が生まれてからも、一匹のアルファだけでは不安だったのか、父は家を空けがちだった。母もそれが当たり前だという態度で、僕はいくら良い方向に考えても、愛の結晶と言われる存在とは、ほど遠いものだった。   
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