マノメ・ヨシユキ

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 今度は、頭を殴られたような気持ちになった。僕とユキは、初対面で同じことを考えていた。奇妙な偶然に嬉しくなって、君からも匂ってくるよ、と返事をしようとしたら『なんの話だ?』と父親が割って入ってきて、話すタイミングを失ってしまった。  あれから言いそびれて、ユキから花の匂いがすることは、本人にも言っていない。それにどうやら、匂いに気が付いたのは僕だけのようなのだ。僕は家に帰って、さっそくあの迷信を調べた。  魂の番は、匂いでわかる。  血縁関係こそが何より価値のあるもので、それが僕を証明してくれる唯一のものだと思っていた僕は興奮した。迷信でも良い。魂の番は、血のつながりよりも、尊いものかもしれない。僕はユキのことで頭が一杯だった。  ユキを思い浮かべながら、魂の番に関する書籍を読み漁った。けれどいくら探しても、アルファとベータの運命の番は出てこなくて、がっかりした。  でも第二次成長期に、性別は変わる可能性があるという話を聞いて、気を取り直した。僕とユキは、魂の番かもしれない。成長して、ユキか僕の性別が変わるのを、心待ちにした。  そして、彼女は明日、出兵することになった。 「ヨシユキ様」 「――どうした?」 「あと五分程で、屋敷に到着します」 「ああ、分かった」  運転手が話しかけてきたので、僕は鷹揚に頷いた。ユキが戦地に赴く前日、軍に話を付けていたおかげで、彼女とすんなり外で会うことができた。でも結局、彼女を説得できずに、僕はこうやって家に帰っている。
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