マノメ・ヨシユキ

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 僕は義兄の返事を聞かずに、奥に引っ込んだ。渡り廊下の階段を上り、自分の部屋を目指す。ドアを後ろ手で閉めて、一人っきりになったところで、僕は上着のジャケットを脱いだ、  備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、キャップを緩める。一口飲むと、生き返る心地がした。  近くにいるだけで、体が熱くなるきょうだいと話ができたのに、義兄で帳消しだ。家長としての役割を果たせと、彼は顔を突き合わせるたびに、もっともらしい説教をするが、僕が結婚して一番困るのは義兄だ。  アルファでありながら、子どもがなかなかできなかった父は、不妊を僕の母のせいにしていたが、いくらオメガの愛人を作っても、ユキ以外できなかった。  僕が未婚のまま子どもを作らなければ、義兄の子ども達にも跡取りのチャンスがある。誰でも思いつくような野心を、おくびにも出さない義兄はとても狡猾だ。でも脇が甘かったら、グループの経営は任せられないから、丁度良いのか。  僕はペットボトルを冷蔵庫に戻すと、ベッドに横になった。シャツが皺になるとか、ネクタイを解こうとか意識はあったが、気にならなかった。  もうすぐ彼が来る。  どうしてやろうか。僕は水滴がついた唇を、舐めた。天井を見上げると、彼の人間らしい感情を一切奪われた顔と、泣きじゃくったユキがダブってしまう。
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