マノメ・ヨシユキ

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 僕が0421と初めて会ったのは、学生時代だった。まだあの頃は、階級差が見えないくらい自由があり、渡航も難なくできていた。留学から一時帰国していた僕に、ユキが紹介したい人がいると言ってきた。上擦った、緊張と興奮が混じった声に、ピンときた。  待ち合わせた場所は、大手チェーンのファミレス。周囲の声が騒がしくて、僕はグラスについた白っぽい汚れが気になっていた。 『マサキ。学部は違うけど、バイト先で一緒になったんだよ。あー、マサキ。私の異母兄弟のマノメ・ヨシユキ。イケメン、金持ち、高学歴で三種の神器持ち』 『はは。こんにちは。マノメさん、でいいですか?マサキです。ユキに紹介したい人がいるって言われて。彼女は一人っ子だと思ってたんで、ちょっと驚きました』 『こんにちは。ヨシユキで構いませんよ。ユキが大切にしている人は、僕にとっても大切な人ですから』  四人掛けのテーブルで向かい合った僕たちは、にこやかに自己紹介をした。僕は隣り合ったユキと彼が、時おり微笑み合い、アイコンタクトを取る様を二時間程、見せつけられていた。グラスの汚れがますます白っぽくなった気がして、気分が悪くなった。  胸やけを抑えながら、僕は目の前に座る、彼女が愛する人をじっくりと堪能した。芸術学部で、将来はウェブデザイナーを目指してる。オメガ性です。彼女と一緒にいると落ち着く。マノメさんの大学、凄いですね。あ、すいません。俺ばっかり喋ってて。良いよ。気にしないで。マノメさん、いかにもアルファって感じて、憧れます。どーせベータの私とは月と鼈だよ。誰もそんなこと言ってないだろー?  ああ、この二人は結婚するなと、僕の目の前ではしゃぐ二人の未来を思い浮かべた。ユキが欲しているもの、ユキが熱望しているものなら、どうしても分かってしまう。  きょうだいである僕を、決して愛してはくれないユキが、愛している者。僕の心に、ぽっと火が灯されたような、暖かな気持ちになったのを覚えている。  これを手に入れたら、少しは僕の欠落感は無くなるのでは無いかと、ユキの結婚式に出席した帰り、考えていた。
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