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「その事なんだけどね……そう言えば、君、指輪は?」
「……センターに連れてこられた時に、身に着けていたものは全て没収されました」
「そう……」
僕はレストランで、大事そうに指輪を嵌めていたユキを、思い出していた。まるで指輪が、自分達が愛し合っていた証だと言うように、ぎゅっと手を握り込んでいた。でももう、跡形も無い。僕は愉快な気持ちで、唇を舐めた。
「ユキはね、嵌めてるよ」
案の定、0421は目を見開き「ユキに、会ったんですか」と食いついて来た。僕はベッドから立ち上がり、椅子に座った0421に近づいた。
彼の膝と僕の足が触れ合いそうな距離になると、0421の肩がびくりと震えた。
「会ったよ。ついさっきね、ユキは明日、出兵なんだ」
「……」
「僕はユキを助けたいと言ったんだ。でも彼女は断ったよ。自分が戦争に行けば、僕が君をコミュニティに送れないからって」
ユキは口では決して認めないが、僕達はお互いが何を考えているのか、手に取るように分かるのだ。これが血のつながりからくるものでは無いなら、一体何だと言うのか。
0421の顔がくしゃりと歪み、嗚咽も漏らし始めた。彼の押し殺すようなうめき声に、雨が降り注ぐ音が混じる。
また天気が悪くなったのだなと、僕は彼が泣き止むまで、外に意識を傾けた。0421の短く切り揃えられた黒髪を見下ろしていたら、彼がゆっくりと顔を上げた。
目元は赤くなり、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっていた。
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