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オメガは戦争が始まってから、産む母体として国で保護されないといけないとか政府がごちゃごちゃ言って、収容所に入れられた。だから外で働いているのは、ベータだけ。
こいつはいつ、出兵するんだろうか。それともアルファ階級しか来れない高級レストランで働くことを条件に、出兵を逃れたのか。
私の不躾な視線を無視して、ウェイターはさっさと行ってしまった。気を取り直して、私はマノメに話しかけた。
「なんでここ、私らの他に客がいないの」
「貸し切ったからね。君と話がしたかったから」
「は~さすが。マノメ財閥のご子息が言うことは違いますねぇ。この御時世、三ツ星レストランを貸切るとか。贅沢は敵だって、うるさいくらい放送されてんのにねぇ」
「ここは三ツ星じゃないよ」
マノメがどうでも良いことを訂正してきた。私は「あぁ、そう」と適当に返事をした。マノメの、長く骨ばった指がカップを持ち上げた。整えられた、桜貝色の健康的な長爪が見えて、私は自分の爪に視線を移した。
爪の表面には、白い縦筋が目立ち、ボコボコと凹凸ができていた。大病かと期待して軍医に診察を受けたら、老化と栄養不足だと。
サプリメントを五種類くらい渡された。あれからかみ砕いて飲んでいるが、爪は相変わらず不健康そうだった。
サプリメントなんて取っても無駄だと、軍医も内心では思っているに違いない。健康的な肉体に、バランスの取れた美しい指を維持できるのは、この御時世でアルファだけなのだから。
私はカップに口を付けるマノメの顔を、観察した。すっと通った鼻筋に、高い頬骨。目を伏せると、まつ毛の長さが強調されて、物憂げな美青年ができあがる。
父親が一緒でも、母親が違うというだけで、こうも容姿に差が出てしまうのは、異母兄弟がアルファだからだと、私は諦めた。
ネクタイを締めた首の咽喉ぼとけが、こくりと動いた。
「マノメ」
「ヨシユキだよ…君だってマノメ家の一員なのだから」
「冗談はやめてくれよ」
「冗談?どうして君の名前がユキで、僕がヨシユキなのか、考えたこともなかった?僕達は同じ年に、同じ日に生まれた」
「母親は違うけどね」
嫌味を言うと、マノメはカップを置いた。
「些細な事だよ。僕達はたまたま出てくる腹が違っただけで、僕と君は双子のようなものなんだ」
「辞めてくれ」
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